指導者より

息子のバイト考察

 

 この春大学生になった息子は某人気コーヒーチェーン店でバイトを始めることになった。そもそもコーヒーを飲みたくて店に足を運ぶことはこれまでなかったと思うのだけど、そこでバイトをすると女子にモテるとか、就職するときに何かセールスポイントになるなどとどこからか聞きつけて面接を受けた。案の定「コーヒーは好きですか?」と店長さんにコーヒーを勧められながら第一声で聞かれ、さっきまで高校生だった息子は口の利き方も拙く「嫌いです」と答え、笑われたそうだ。家に帰って「こんなんじゃ面接で落とされるね、そもそも何でコーヒー好きじゃないのに働こうと思ったんだろう」と、しばし反省。

一週間後ラッキーなことに採用のお知らせが来た。本人も周りもびっくりだ。友達にはうらやましがられ「お前、顔で通ったんだろ・・」なんて言われた。(この子はうまい具合に東洋と西洋がミックスした容姿に成長した。)

さて、研修の身でアルバイトに行くうちに息子は、働く人もお客さんも一人一人を尊重するこの企業の考え方の素晴らしさを家で語り始めた。初めての経験できっと純粋にそう感じられたのだろう。ところが回数を重ねていくうちに、仕事であまりに覚えることが多くて大変だー大学の授業もやることいっぱいあって、バイトどころじゃない・・と弱音を言い始めた。え?始めたばっかりじゃん、何言ってんの?と、こちらは知らん顔。そのうち、「なんでバイトがしんどいか分かった。マスクしているからだ。」この店舗は病院内なのでマスクをするのは義務。「コミュニケーションが取りにくい。そのせいで気分が晴れないんだ。」と自分のモヤモヤに気が付いたように言った。一件落着なのかと思っていた。が、思い出したように彼の小言続く。初めに抱いた期待と違う現実に当たると、いちいち立ち止まっているようだ。

先日は「なんであそこで働く人ってこのお店が大好き!っていう高めの温度なんだ?そこまでする必要がある?ちょっと宗教みたい・・」と言い出した。彼の周りはほとんど大人の女性、皆さんいろんなところに気が回り快活に一生懸命働いているのだと想像する。そして当然コーヒー好きでしょう。

ある日のバイト帰り「今日は楽しかったよ。二つ年上の男の先輩が働いていて、この人すごいの。休憩用のドリンクを選ぶとき、あれは不味い、これも不味い、と言ってなかなか決めないの。その間、副店長はすごい顔でずっと睨んでるの。勤務中おしゃべりして注意も受けてるし」「でもあのくらいでちゃんと務まるんだな、ああいう男子がいてホッとしたよ。」

この先輩といろんな言葉を交わすうちに心がほどけたようだ。

社会のいろいろな人の中でこうして自分なりに折り合いをつけて生きていくんだ。謙虚な気持ちを忘れず、頑張れ。

(2024年4月)


プロフィール

  石井 プピ あかね

 

 東京学芸大学 特別教科教員養成課程(D類)音楽科 ピアノ専修 卒業

 

 卒業後、 埼玉県立高校にて音楽の非常勤講師を8年間勤める。

また合唱団のピアニストとして国内外で多数コンサートに出演。

ピアノ教室を自宅(埼玉県)にて10年間主宰する。

 

        ☆☆☆☆☆

 2017年よりピアノア・ラ・メゾンピアノ教室を主宰。(現・東京都府中市)

 

 女声合唱「ありす」の指揮者。

 

 合唱指揮を大谷研二、 

ピアノを東由輝子、小池ちとせ両氏に師事。

 

 

フランス人の夫、大学生の息子、高校生の娘の4人家族。

 

 

 

 

すきなもの・・・ビール